マネーボール


オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンブラッド・ピット)は資金の少ないチームのやりくりに苦しんでいた。さらに新シーズンに主力選手を引き抜かれてチーム内の状況は混迷を極めていた。
そんな中でビリーは、ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)と出会い、低予算でいかに強いチームを作るかという新たな選手評価の概念、"マネーボール理論"を実践することを考え付く。

だが、革新的な考えにチーム内、さらに球界全体から懐疑的な目でみられるようになる。
それでもチーム改革をすすめるビリーの信念は変わらない…



観賞日

2011年11月14日




【75点】









2003年に出版されたベストセラー「マネーボール」。
球界に革命をおこした経営理論は、ビジネス書として人気を集めていた。

注目すべきは、純な小説などではなく、ビジネス書だということ。
起承転結の物語ではないものである以上、地味な作品になることは明確。
むしろビジネス書だと「わかりにくーい」みたいになり兼ねない可能性すらもある。




だが、ブラッド・ピット自身がプロデューサーもつとめるほど熱を入れた今作は、様々な様相が絡み合った作品に仕上がった。
しかもビジネス書が原作であるため、野球好きでなくとも観れる作品になっている。
(実際、ブラピやジョナ・ヒルもそんな野球好きではないらしい)

















前述のように野球好きでも楽しめるということは、この映画は純粋な野球映画ではない。むしろ、「既存」に挑む男の物語と言う方が適切だろう。



アメリカ映画はともすれば単なるサクセスストーリーになりがちであるが、今作は単純にはいかない。

選手として失敗し、GMとして革命的行為を成さんとするビリーには、常に過去の失敗が自分の心のうちに、革命的行為には批判の目が常に向けられる。
ともかく一筋縄ではいかないわけだ。

だからこそ、この映画の到達点に感動がある。





作中で、計算式に基づくシステマチックな考え方を持ちながらも、しばしば感情的になるビリーには驚かされた。予告編だと沈着冷静に球界を変えようとする戦術家のようなイメージに見えたが実際は少々異なっていたようだ。

歯に衣着せぬ物言いで時に周囲を困惑させ、いらつくときはモノにあたる…
そこにいたのは苦悩する1人の「男」だった。

(しかもよくポップコーンやら何かを口に入れている(笑)ところも人柄が表れているようで良い。













この映画の面白みは、華やかな球界のバックヤードの部分にもある。

どの選手を採るかの会議や球団間での交渉、選手へのリストラ勧告など生々しい部分がじっくりと描かれている。いわゆるビジネスライクなアメリカ的考え方がよくあらわれていて、サッカー好きな私は「あーサッカー界でもこうなんだろーなー」と何となく納得してしまった。


中でもビリーの巧みな交渉は映画の中でも地味にハイライトな部分だ。


















ここまで褒めるのになぜこの点数に落ち着いたか。

それは今年始めの『ソーシャル・ネットワーク』に比べて迫力に欠けたためだ。

というのも『ソーシャル・ネットワーク』は怒涛の展開や魅せる展開でこちらに無駄な思考のヒマを与えない迫力があったのに、今作はちょいちょい思考のヒマがあったためだ。決してつまらなくはないのに意識が逸れてしまう。

その感覚はテレビドラマを観ている感覚に似ていて、淡白さが目立ち途中途中でぶつ切りにされてしまっている印象だ。ブラッド・ピットでなければ厳しかったのかもしれない。

恐らくMLBに対しての知識が多ければ選手名などでより楽しめたのだろう。



















だが「結果」も含めて、ラストは納得だった。
「人生ってそう全てがうまくいくわけじゃないよね」って確認させられる。だからこそ彼の姿勢に賛同もしたくなる。


個人的には、とにかくラストが良かったので注目してほしい。
ビリーの娘の唄も良い味。








映画ではここまで言われないが、結果的にこの理論が認められたことで金持ち球団がデータ野球を取り入れてますます弱い球団が厳しくなってしまったとも言える。だがそれは彼の考えが受け入れられた証でもある。
彼の戦いはまだまだ終わらない。







↓予告編はコチラ↓
http://www.youtube.com/watch?v=4cn-GMnMzt4