おくりびと

おくりびと [DVD]

おくりびと [DVD]

所属していたオーケストラが解散して失業したチェロ奏者、小林大悟本木雅弘)。やむなく彼は妻の美香(広末涼子)を連れて実家の山形に帰ることに。

新たな職を探す大悟は、好条件の求人広告を見つけ面接に向かう。しかし、その仕事は佐々木(山崎努)が経営する納棺師という仕事だった。
思いもしない仕事内容にあわてふためく大悟だが、佐々木に言われるがままに引き受けてしまう。妻に本当のことを言えないまま、小林の新人納棺師としての仕事が始まった…

観賞日

2008年9月

【85点】



第32回モントリオール世界映画祭グランプリなど様々な賞を得た「おくりびと」。

2008円公開だが、2009年に話題が最高潮なったので観た方も多いだろう。





私は、たまたま「ダークナイト」を観たときにこの予告編が流れているのを観て興味を持った。納棺師という題材の斬新さと、雰囲気に惹かれたからだ。

結局、この判断が功を奏すことになる。
















今作を一言でいえば、究極の「静」の映画のひとつ。

特に映画の主題ともなっている、納棺のシーンは完全なる「静」。
とにかく静かだ。ここまで静かなシーンは、普段映画を観ていてもそうそうにお目にかかれるものではない。








ここでは誰もが、
納棺師役の、本木雅弘山崎努の手の動きには惚れ惚れする。



ここには、ある「仕組み」が存在する。
静寂の中で唯一音(動作)を出すことを許されているのが彼らだからだ。
観ている者はそこに集中せざるを得ない。
つまり彼らの動き全てに注視して、隅から隅まで見入ってしまう。



だが実は、そんな仕組みがあってもなくても彼らに集中してしまう。
所作が全て素晴らしいのだから。何の穴もない。
見入る「価値」に溢れている。



そんなわけで、納棺のシーンは劇場をも静まり返らせる。
私が観たときは誰一人身動きとることがなかった。
それほどまでの力強さを持つシーンだったということだ。



ポップコーン好きはキビシイ映画(笑)
静かなシーンでは絶対食えませんからね。



















ストーリーは、納棺師としての仕事をしながら成長する主人公大悟の日々を描いたもの。



普段の生活と、納棺師としての仕事。
納棺師として死に触れることで、大悟はより生を実感する。


「家族の、人との繋がりの大切さ。生きるということ。」

ごくごく当たり前だが、忘れがちなことを教えてくれる。



そういった塩梅だ。




この映画の恐ろしさは、
前半のコメディー要素と後半の真剣さのギャップ。さらには日々の生活と死に触れる仕事とのギャップ。

それらが完璧な形で組みあわさっていることにある。

意外や意外コメディー部分が面白いこと。大爆笑もクスりも両方出来るというのだから驚き。

それであっても締めるところは締める。うーんすごい。

















それはたびたび出てくる食事のシーンでも暗示される。

フグの白子=精巣を食うシーンなどなど多くのモチーフがあり、
自分達が生きていたものを殺して食っているということを象徴していたりする。

まあそれはよくある良い子ちゃん的論ではある。



それよりもすごいのは、
食事が常に「死」とリンクして様々な角度から物事がみえることにある。

ここを意識して映画を観ると全く違った形に見えてくるだろう。
















ちなみに監督は、「壬生義士伝」「バッテリー」「秘密」の滝田洋二郎
さらに久石譲の音楽も名場面。日本に誇る作曲家はまたしても大仕事をやってのけた。




個人的には山崎努の演技が特に印象に残った。


山崎努が演ずるベテラン納棺師の佐々木の過去は、ほぼ語られない。
だが、彼の演技全てが佐々木という男の過去を物語っているかのよう。

実際、見ている側は彼の存在感に圧倒される。


あまり日本映画に触れてこなかった私は、彼のすごさにようやく気付いたようだった。
劇場を出て最初に「山崎努すげぇ…」とこぼすほどに。