映画監督・平野勝之。
人々の支援によって、彼は2005年に34歳で急逝した伝説のAV女優・林由美香への想いを一本にまとめるべく行動を開始する。過去に彼は、『由美香』というタイトルで映画を製作した。これは、1996年当時恋愛関係にあった彼女とともに、東京から北海道への自転車旅行に挑戦するものだった。
数々の苦難を共にした2人は結果別れるが、同時に強固な友情も築かれていた。
そして"その日"は突然訪れた…
観賞日
2011年10月6日
【75点】
今回の映画はすべてが事実である故に、ここで批評できることもある意味ネタバレとなってしまうので悪しからず。
「ヱヴァンゲリヲン」の庵野秀明プロデュースの今作は、ドキュメンタリー形式の作品だ。
そもそもなぜ庵野秀明がプロデュースすることになったのかといえば、知人から勧められた『由美香』を観て平野を知り、知人が「平野に映画を撮らせたいから協力してくれ」と依頼されたからだ。
そして様々な人々の後押しをうけて平野は、林由美香への映画をつくることになる。
ちなみに昨年のインタビュー映像でカメラをまわしているのは庵野秀明本人だそうで。
序盤はひたすら林と平野の旅路の映像。
ぶっちゃけ長い。生々しさの面でいったらこれ以上のものはないほどドキュメンタリーだが、いかんせん長く感じてしまった。
だが、その長さも進むにつれてわかってくる。
今作で圧倒されるのが、林由美香の死に関する封印されていた映像だ。
もともと玄関から被写体を撮るタイプだった平野は、当時もカメラをまわしていた。
そして遺体を見つけた時もカメラはまわっていた。
当然全ての人があわただしくうごめいていたため、カメラは雑然と其処に置かれていただけだった。その位置はちょうど玄関近くで、奥に暗い部屋が映っているのみ。
林の遺体は見えない。見えないその絶妙な位置だからこそ様々な想像ができてしまう。
しかもちょうど林の母親が泣き崩れている場所の目の前で、娘の死という現実に瓦解する母親を克明に映し出している。なんだか観ているのもつらいが、目が離せない。
とにかくここでのカメラ位置が凄すぎるというか、偶然の奇跡にも似ている。
全てを観終わるとこの映画が、林由美香にさよならをきちんとするためのものだったと言うことが分かる。
平野がこの映画を作る上で、どれだけの精神的疲労をともなっていたかも終盤になってようやくヒリヒリと伝わってくる。その痛々しさはドキュメンタリー独特のそれだ。
前述した、序盤の二人の旅の甘い時間をひたすら編集し続けなければならない辛さ。
「なんか長すぎるのではないか」と序盤観てる途中では思うわけだが、それも最後には平野が林への想いをこめるための儀式のようなものであったと分かるわけだ。
もっと辛かったのは遺体発見当日の映像だろう。
彼が映画を作れなくなった原因にもなったわけだが、それを観続けるという心労を考えると恐ろしいものがある。
だが彼はそれを乗り越え、ラストへと辿りついた。
林由美香の前では常に「監督失格」だった平野。
だが林由美香を送り出せた彼の覚悟には、こちらの心に真に刺さるものがあった。
その言葉があったからこそこの映画のラストにたどり着けたのではないかとすらも思われる。
私も「送り出す」事には思うところがあるので、何かをしたいと心を動かされた。
それだけのエネルギーが内包されている作品だ。
予告編はコチラ↓
http://www.youtube.com/watch?v=CaFm3RFLNxQ
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