アーティスト


1927年のハリウッド。サイレント映画の大スター、ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)はふとしたハプニングからペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)と出会う。ペピーは女優志望で、映画のエキストラの際に再びジョージと出会うことになる。

そしてチャンスを得たペピーはスターへの道を駆け上がっていく。そして時代はサイレントからトーキー映画の時代へと突入する。しかしジョージはサイレントにこだわり、人々から忘れられていく…

観賞日
2012年4月7日


【87点】







第84回アカデミー賞の作品賞、主演男優賞、監督賞など主要5部門を受賞した本作。

その称号に違わない、映画史に残るべき名作だった。









この作品の特徴は、ほぼサイレント映画であること。
映像には音楽だけが付与され、セリフは時たま映像と映像の間に差し込まれる。



チャップリンフリッツ・ラングといった、最早世界史で習うようなレベルの時代の映画だ。
そしてサイレント映画はトーキーの登場とともに姿を消した。


私自身、チャップリンの映画を2本くらい観たことがある程度なので、
サイレント映画に関しては初心者も同然なのでご了承ください。









この映画は、「この映画自体がサイレント映画であると同時に、
その内容もサイレント映画からトーキーへと移りゆく時代である」という点がポイントだ。


その点は最初のシークエンスから生かされている。ジョージが自身の出ている作品を劇場の舞台裏から観ているわけだが、
その際に流れている(演奏されている)音楽はこの作品内で流れている架空の映画にシンクロしたもの。












時代背景にも注目したい。映画の変革が盛り上がる中でありながら、
1929年の世界恐慌が起こっている今作は、なんだか昨今の状況と似ている。



現在は、映画は3Dという新たな技術を得ているが、時代としては不況の暗い影が落ちている。
だがこの映画はそんな時代であってもあっけらかんと立ち上がる元気さを象徴する。
ストーリーが単純なのもよりその表現を際立たせている。










前述したとおり、ストーリーは至極単純。まあなんとなく予想はつく。


だがサイレント映画は口パクでセリフがわからないシーンも多数あるので、ストーリーが単純でないとどうにもならない。
むしろ口パクの部分を自身の想像で埋めていくのも、サイレント映画の醍醐味でもある。
ある意味では小説と同じ感覚だろうか。(こちらは映像から言葉・音声を想像するが)




ストーリーが単純であっても魅せることの出来る映画であったということを考えると、
この映画は新たなスタンダードとなった映画だろう。

現代の(サイレント以降の)サイレントはまさしくコレだ!という言葉がピタリだ。











役者陣の演技の素晴らしさは、数々の賞が証明している通り。
アカデミー主演男優賞獲得のジャン・デュジャルダンは圧巻のひとこと。



見た目のダンディさもさることながら、しぐさのひとつひとつから銀幕スターのオーラを滲ませる。

ヒロインのペピー役、ベレニス・ベジョはどこかマリリン・モンローのようなエネルギーを感じさせる。
この映画が“元気の良い”へと変貌したのはペピーの存在があったからに他ならない。

未来を背負ったキャラクターとしては、シンプルな造形だが異様なまでにエネルギッシュに見えるのは、
この映画が彼女の表情を追うサイレントだからこそだろう。




ジャンの相棒、犬のアギーも最高。いや、むしろこの映画の陰の主役は彼かもしれない。
愛らしさたっぷりのしぐさでこちらをクスリとさせてくれるだけに、本作での緩急は彼によってつけられたといっても過言ではない。








ラストシーンは納得とともに、感動できる。サイレント映画の時代ではできなかったことが、この映画では達成される。
ここでは詳しく述べることはできないが、今だからこそ出来る、というアイディアには完敗だ。




107分という時間に凝縮された過去のサイレント映画へのリスペクトと、
現代だからこそできるアイディアの融合…「サイレント=古い」図式を塗り替えてしまった。







愛のストーリーと映画愛が融合した本作、これは必見。





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