剣の達人である海坂藩士・戌井朔之助(東山紀之)に下った藩命は、脱藩した親友の佐久間(片岡愛之助)を討つこと。佐久間は民を思って藩を批判し、藩主の怒りを買い、脱藩したのだった。しかも佐久間は、妹・田鶴(菊池凛子)の夫であった。
朔之助とともに剣術を学んだ田鶴は武士の妻として、そしてその気丈な性格から手向かってくるに違いない。
そして朔之助は田鶴への想いを秘めた奉公人・新蔵(勝地涼)を連れ旅立つのだった…
観賞日
2011年7月14日
【70点】
今作は、『必死剣 鳥刺し』や『花のあと』などこれまでの数多くの作品が映画化されてきた藤沢周平の短編が原作となっている。
時代劇映画として確固たる地位を築いているだけあって、予告編からして期待大な内容だった。
その期待にもっともかなっていたのは、作品の空気感。
とにかく、静けさと”タメ”の映画だった。
登場人物たちや風景の静けさはまさに時代劇ならではといった様相で、特に田鶴たちを追って朔之助たちが海坂藩から旅をする場面では風景の美しさが際立っている。
いわゆるロケーションが素晴らしい映画の一つなのだろう。
息を呑むほどの美しさ、そこに加わる壮大なBGM。
単調になりがちな旅の行程はこの演出でカバーされていた。
『小川の辺』というタイトルが示すとおり、兄弟の思い出や田鶴たちの隠れ家などがまさに『小川の辺』にあるわけだが、それだけではない。
町にある溝や川、雨など”水”に関するものが要所要所にあり、それらが物語の中で役目を帯びているのが面白い。
朔之助が旅をしていく中で田鶴や佐久間に関する数々の思い出を思い出していくわけだが、その契機がほとんど”水”に関するものだ。
まるで流れていく水と時の流れが上手くマッチしているかのようで、観ているこちらの心に染み入るような演出が心憎い。
さらには”タメ”も、今作を語る上でかかせない要素のひとつだろう。
登場人物たちの台詞や行動における「あえて多くは語らない」感覚は独特。
時に歯がゆくもあるが、味わい深くもあり、そこを噛み締める楽しみもある。
だからこそ、物語が淡々としすぎていてスパイスがたりなかったのが残念だ。
もうひとひねりあったらもっと点があがってたかも?
自分が想像していたよりもエグい展開にはならなかったので、そう思っただけなのかもしれないが起伏に富んでいるとは言いがたかった。あくまでワンテーマのみで、それ以外の要素は排されている感じ。
東山紀之は、想像以上に凄みがあった。
端々にみせる苦悩は、口には出さないながらもその表情が物語っている。
武士として藩に尽くさなければならない宿命=妹の夫である親友を討つことのなかであがくさまは今作の最も注目すべき点だ。
ラストで彼が下す決断やその表情にも注目してほしい。
特に”あの”表情はある意味モヤモヤしていた私の心にスッとした清涼感を与えてくれた。
『大奥』の二宮和也と同様に菊池凛子の演技がどうも現代劇臭く見えてしまうのが…
キャラクターとして気丈な女性だからというのもあるかもしれないが、それにしても台詞が他の人と毛色異なりすぎる。
もっとこの時代に寄せていたら違和感は無かったはずなのに…
総じて
静かな映画、奥ゆかしい映画を好む人にオススメな映画です。
わりと今公開している日本映画は騒がしめの作品が多いだけに。
、