ステキな金縛り

失敗続きであとのない弁護士エミ(深津絵里)のもとにある被告の弁護の話が持ちかけられる。妻殺しの罪で捕まった彼だが、アリバイがあった。なんと彼はその時間、旅館で金縛りにあっていたというのだ。

その旅館を訪ねたエミは、更科六兵衛(西田敏行)という落ち武者の幽霊に遭遇、裁判で矢野のアリバイを証言してくれるよう依頼する。なんとか六兵衛は証言台に立つことを承知したが、当然六兵衛は誰にでも見えるわけでもなかった。
そのため科学で解明できないことを信じない敏腕検事の小佐野(中井貴一)が大きな障害として立ちはだかることになる。

そして前代未聞の裁判が始まる…



観賞日

2011年11月16日





【83点】








三谷幸喜の監督5作目は、法廷モノ×幽霊モノというアイディアを聞くだけでワクワクするようなコンセプトの作品。

しかし法廷モノというのは画面があまり変わらないという弱点があって、よほど緻密な事件や物語か突飛なアイディアがないと飽きてしまう恐れがある。
だが今作は、見事にその面をクリアしてきた。


幽霊が”見える”人と”見えない”人がいるという設定を巧く使って、笑いどころを沢山用意している。まーとにかく飽きないこと、飽きないこと。





















この映画の魅力は実力派俳優が数多く出ていることにあるが、そういった実力派にとんでもないことをやらせられるのは三谷監督だけだろう。

中井貴一は、エア犬とのじゃれあいをするし、口からピンポン玉を出す手品もする。まさに体を張っている(笑)ここでしか見れないお茶目な中井貴一は必見。

さらに阿部寛は軽快にタップダンスを披露していて、小日向文世は映画好きなクセのあるキャラでシュールな面白さを提供する。

大泉さんも出ているので見逃すな!!








だがやはりこちらを圧倒するのは深津絵里西田敏行の2人の演技だ。

昨年は『悪人』で高い演技力を評価された彼女は、今回のようなコメディでも魅せてくれた。2人のかけあいはまさに絶妙で、ハイレベルな”打ち合い”をみているかのようだ。

さらに西田敏行は、普段の感じだと野暮ったいイメージもあるが、今作では1人だけ落ち武者という格好をしているので野暮ったいイメージとピッタリ合って最後まで見ていても一切不快感を覚えない。むしろ今作の”幽霊裁判”という不思議な雰囲気を支えているのは彼だ。


彼のキャラが様々なキャラと絡み合うことで、物語はテンポのよさを増し、見事に色を帯びていく。



















舞台演劇をみているかのような駆け引きはやはり三谷監督ならでは。
(それゆえ映画っぽさが少し薄れているが)

それでも今回はかなり「映画」を意識したようで、今までは私生活を一切想像できないような登場人物だったところを変更し、主人公エミの私生活を描いている。
私生活を想像できないのは、やはり舞台の上でのみ演技が再現されている感が強かったからであろう。そう思えばかなり大きな変化であることは間違いない。


さらにカット割の手法が増えたことも映画っぽくなったことを象徴する。




セットにもこだわりがみられるので、たとえ物語や台詞への集中力が途切れていたとしてもセットの方へ目が行く。とくに序盤は演劇のセットのようで雰囲気を見ているだけでワクワクしてくる。



















法廷の最後の方は少しやりすぎた(はしゃぎすぎた)感もあるが、そういうやりすぎるところも三谷監督らしいというかなんというか…








それにしても、まさかだいぶ前の昔の宝くじのCMからこの映画の宣伝がはじまっていようとは…
(三谷監督と深津絵里が喫茶店で新作映画について話し合って、深津絵里が「私が全部の役やるんですか?落ち武者も?」というやつ)
そのスパンも含めてとんでもない大作だ。




ただし宣伝の意味で言うと、この映画の宣伝文句は少々大げさすぎる。「三谷映画史上、最高に笑って泣ける」というものだが、この映画はそういう映画ではない。








笑えるのはもちろんだが、「泣ける」面は違う。
それよりも心温まるというほうが適切で、「あーほっこりした」という感覚のほうが大きい。


宣伝の野暮さだけが残念な映画だった。




↓予告編はコチラ↓
http://www.youtube.com/watch?v=w9A7f_dOhLs