amazarashi@渋谷公会堂(2012/1/28)

『音楽にできること』の向こう側


amazarashiは青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心とするバンド。彼らについては多くが謎に包まれている。
今回のライブは、昨年発売したフルアルバムのリリースライブ。チケットは当日券なしのソールドアウト。

ちなみに前回のCDレビューはこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/chairmanzx/20111118/1321629238


圧倒的だった。「何」が、ではなく「全て」が。
バンドのライブというものは、基本的には演奏を魅せるもの。そうだと思っていた自分にとってはとんでもないパンチを食らった気分。
彼らが魅せたのは、もちろん演奏でもあるわけだが、それ以上に歌詞の世界・彼ら(秋田ひろむ)が伝えようとするものが凝縮されていた。













楽器の前に下りているスクリーン。開演前は全く何の楽器が置かれているのかがわからない。
そして、開演。・・・幕は下りたままだ。






アルバム名、そして今回のライブのタイトルにもなっている曲「千年幸福論」の一部から、今までに見たことのないライブが始まった。
後ろからの照明によって姿がぼんやりと見えるAmazarashiのメンバー。
5人。ギターボーカル、ギター、ベース、ドラムス、キーボード。キーボードは女性のようだ。
(何人かもわからなかっただけに、既に人数がわかっただけでも驚きなのは内緒です(笑)


スクリーンには映像が映し出される、赤ん坊の写真やきれいな風景など…

そしてまるで邪悪な讃美歌のようなイントロが流れる。「デスゲーム」のはじまり。
するとまるで3Dの映画を見ているかのような錯覚に陥るようなCG映像がスクリーンに映し出された。

実際に演奏している姿も追わなければならないし、映像も追わなければならない。忙しい(笑)。
だが、新規の映像は凝っていて、ライブのためだけに作られたものとは思えないほどの出来だ。














新たなCG映像や数々の実写映像、写真・・・それらが巧みに構成され、歌詞の世界を切り取っていく。

「ピアノ泥棒」の際は、いつのまにかなんとステージの端につるされている(?)ピアノが。
さらにほかの曲でも、幕の向こう側で炎が灯ったり、「奇跡」では卓越したライトアップで演奏者が何人も増えているように見える演出。
全てが洗練されている。私たちの脳髄をダイレクトに刺激してくる。
なんなんだこのライブは…ただ座っているだけだというのに、体の内側は刺激を受け続けている。






正直文面では伝わりづらいので、本当は映像で観てもらいたいところ。しかし、映像でもこの刺激は再現できないだろう。
生、ライブでしか伝わらない境地に達している。ライブだからこそ価値があるものに見事仕上がっている。

音楽ができることの向こう側へとたどり着いてる。大げさではなくて、本当に。

もちろん演出面だけでなく、演奏面でもCDの音源とは違った楽しみがある。
これはどのアーティストにも言えることだが、激しい曲であれば曲の終り際に激しくかき鳴らすなどエモーショナルな面がみられるし、歌声でも声を振り絞るような歌はよりそこが強調されている。

実際のライブだともっと歌声がか細くなるのではと私は勝手に想像していたので、秋田ひろむの声が内包するエネルギーには驚かされた。













ラストの前に、フロントマンの秋田ひろむが初めて喋った。
これまでは全ての曲間で沈黙を貫いていたが、最後に自らの言葉で、私たちに語りかけた。

「こんな人間でもここ(渋谷公会堂)まで来れました。歌が励みになれば」のようなことを言っていたが、もちろんここに聴きに来た私たちはわかっている。「こんな人間」だからこそ心に響く歌を作れたのだし、訪れた人も少なからず「そういう人間」なのだから。















最後の曲、「千年幸福論」。
まさに最後だとわかる、ラストにふさわしい曲。ここまでこのライブで使用されてきた映像たちがフラッシュバックするかのように一気に流れる。そして歌詞と連動して何かが一気に胸にこみ上げてくる。






<あなたが居なくなっても生きる僕を 許せないといったら笑うでしょうか?
僕がいなくても生きていくあなたを 「悲しい」と言ってはいけませんか?>

<千年続く愛情を 千年続く友情を 千年続く安心を 千年続く幸福を
千年続く自負心を 千年続く安らぎを 千年続く友愛を 千年続く熱情を
千年続くいたわりを 千年続く尊厳を 千年続く生命を 千年続く喜びを
終わりがあるから美しい そんなの分かりたくもないよ 終わりはいつも早すぎる>




スクリーンに映し出された扉が閉じ、Amazarashiの世界観が凝縮された「芸術」が終わる。













完全に終わった。そう誰もが思う中、会場が明るくなった時、録音の歌が流れ始める。新曲だ。
ライブの余韻も残る中、殆どの人が席を立たず聴き入っていた。
新曲は、「未来づくり」や「千年幸福論」と地続きの、立ち上がって走る希望を唄う曲。
Amazarashiは止まらない。






彼らの音源を聴いて心を動かされた方は、ぜひライブを観てほしい。
音源を聴いた時を遥かに凌駕するものがきっと、必ず得られる筈だ。

(まだ加筆するかも?)

                                                    • -

<セットリスト>

1.プロローグ=千年幸福論(一部)

2.デスゲーム

3.空っぽの空に潰される

4.アノミー

5.つじつま合わせに生まれた僕等

6.美しき思い出

7.ピアノ泥棒

8.冬が来る前に

9.爆弾の作り方

10.夏を待っていました

11.ワンルーム叙事詩

12.奇跡

13.コンビニ傘

14.古いSF映画

15.カルマ

16.未来づくり

17.千年幸福論